Appendix A2. パラメータの決定¶
画素の位置は A1. 検出器の幾何 の幾何に支配されるため、誤ったパラメータを用いると、誤った場所の強度を読み取ってしまいます。このページでは、スタンダード物質 の回折リングから、カメラ長・波長・画素サイズ・IP の傾きという真のパラメータを決定する方法を説明します。実際の操作は 4. 実際の手順 と 6. パラメータ校正(力ずく) を参照してください。
スタンダード物質¶
校正には、格子定数が既知の標準物質を測定します。望ましい条件は、多数の回折リング が 高い SN 比 で、疎らに 位置し、配向性がない ことです。特にこだわりがなければ、\(\mathrm{CeO_2}\) や \(\mathrm{Ag}\) のような重原子を含む立方晶系の結晶を推奨します。格子定数は有効数字 5 桁程度まで分かっている必要があります。
カメラ長 — 2 距離法¶
カメラ長 \(\mathrm{CL}\) は、サンプルと IP 上のダイレクトスポットを結ぶ距離として定義されます。カメラ長を \(\Delta\) だけ変えて 2 枚の回折図形を撮影すると、同一リングの半径(画素単位)\(r_1,\ r_2\) の変化から \(\mathrm{CL}\) の絶対値を決められます。距離差 \(\Delta\) はマグネスケール等で精度よく制御できます。
相似三角形 \(\dfrac{r_1}{\mathrm{CL}} = \dfrac{r_2}{\mathrm{CL}+\Delta} = \tan 2\theta\) から、
が得られます。ここで \(r_1,\ r_2\) は画素数のままでよく、傾き補正・画素サイズ補正が多少不正確でも、さらにはスタンダードの格子定数が不正確でもカメラ長を求められます。このようにカメラ長は他のパラメータとの相関が小さいため、最初に決めるべきパラメータ です。
波長と画素サイズ — 2 線法¶
2 本の回折線が撮影できると、そのピーク位置(画素)\(p_1,\ p_2\) と面間隔 \(d_1,\ d_2\) の比から、画素サイズやカメラ長を知らなくても回折角 \(\theta_1,\ \theta_2\) を計算できます。面間隔の比を \(\rho_d = d_1/d_2\)、ピーク位置の比を \(\rho_p = p_1/p_2\) とおきます。
ブラッグの式と平面検出器の幾何から、
が成り立ちます。第 1 式の比より \(\sin\theta_2 = \rho_d \sin\theta_1\)、第 2 式の比より \(\rho_p = \tan 2\theta_1 / \tan 2\theta_2\) です。\(\tan 2\theta = \dfrac{2\sin\theta\sqrt{1-\sin^2\theta}}{1-2\sin^2\theta}\) を代入すると、未知数を \(\sin\theta_1\) のみとする方程式
が得られます。これは \(\sin^2\theta_1\) についての 3 次方程式に帰着します。解析的に解くと虚数の処理が必要になるため、本ソフトでは 数値的に 解いて値を求めます。\(\rho_d\) は面間隔の比なので、結晶の対称性によっては(例えば立方晶系では)誤差なく決まります。
回折角が求まれば、カメラ長は前述の 2 距離法で独立に決められるので、上の 2 式から波長 \(\lambda\) と画素サイズ \(\mathrm{PixSize}\) も容易に計算できます。
傾きがある場合
IP に傾きがあると \(p_i \cdot \mathrm{PixSize} = \mathrm{CL}\tan 2\theta_i\) の関係が崩れるため、そのままでは正確な値を求められません。このときは 傾き補正と波長補正を交互に行い、逐次的に解を真の値へ近づけます。
IP の傾き — 楕円フィット¶
円錐角 \(2\theta\) のリングは、傾きのない \(XY\) 平面上では半径 \(R_0 = \mathrm{CL}\tan 2\theta\) の真円として観察されるはずです。しかし傾いた IP 上ではリングは 楕円 になり、さらにその中心はビーム中心(ダイレクトスポット)と一致しません。
\(\varphi,\ \tau\) で傾いた IP 平面上では、リング上の点 \((x,y)\) は一般の 2 次曲線(楕円)
を満たします。係数 \(A,B,C,D,E\) は \(\varphi,\ \tau,\ \mathrm{CL},\ R_0\) の関数として書け、初等的な線形代数で次のように扱えます。
- 楕円の中心 \((x_c, y_c)\) は、勾配が 0 になる条件、すなわち連立 1 次方程式 $$ \begin{pmatrix} A & B \ B & C \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x_c \ y_c \end{pmatrix} = -\frac{1}{2}\begin{pmatrix} D \ E \end{pmatrix} $$ の解です。
- 長軸・短軸の方向と長さ は、対称行列 \(\begin{pmatrix} A & B \\ B & C \end{pmatrix}\) の固有値問題を解いて求めます。
これらから傾きを次のように決定します。
- 方位 \(\varphi\):楕円中心の変位はもっとも急な傾き方向(最大傾斜方向)に沿って生じ、傾き軸はそれに直交します。したがって傾き軸の方向は \((-y_c,\ x_c)\) で与えられ、ここから \(\varphi\) が定まります。
-
傾き量 \(\tau\):\(\varphi\) 方向から投影した図(上図)を考えると、ダイレクトスポットから楕円中心までの距離 \(R\) は、カメラ長・傾き量・回折角の関数
\[ R = \frac{\mathrm{CL}\,\sin 2\theta}{2}\left( \frac{1}{\cos(2\theta+\tau)} - \frac{1}{\cos(2\theta-\tau)} \right) \]を満たします。この式を \(\tau\) について解きます。複数の回折リングが得られた場合は、リングごとに求めた \(\tau\) の 加重平均 をとって真の値とします。