STEM シミュレーション¶
STEM (Scanning Transmission Electron Microscopy) シミュレーションは、走査透過電子顕微鏡像を計算します。
概要¶
STEM像は、収束した電子ビームを試料上で走査し、各位置での透過・散乱電子を環状検出器で検出することで形成されます。ReciProではブロッホ波法を用いてSTEM像をシミュレーションします。
計算手法¶
- 各走査位置で、収束ビームの各入射方向に対してブロッホ波法で回折強度を計算
- 検出器の角度範囲内の散乱強度を積算
- 弾性散乱と熱散漫散乱 (TDS) の両方を計算可能
計算時間に影響する要因¶
STEMシミュレーションは計算コストが高いため、以下のパラメータを適切に設定してください。
| 要因 | 影響 |
|---|---|
| 収束角 | 大きいほどCBEDディスクの重なりが増え、計算コストが増大 |
| ブロッホ波の数 | 固有値問題のコストは波数の3乗に比例 |
| 角度分解能 | 細かいほど正確だが計算時間は二乗で増大 |
| 画素数 | 画像のピクセル数に線形に比例 |
検出器の種類¶
| 検出器 | 角度範囲 | 主な寄与 | 像のコントラスト |
|---|---|---|---|
| BF (明視野) | 0 ~ 収束角 | 弾性散乱 | 位相コントラスト |
| ABF (環状明視野) | 収束角の内側 | 弾性散乱 | 軽元素に感度が高い |
| LAADF (低角環状暗視野) | 収束角のやや外側 | 弾性 + TDS | ひずみに敏感 |
| HAADF (高角環状暗視野) | 収束角の十分外側 | TDS (非弾性) | Z-コントラスト(原子番号の約2乗に比例) |
STEM固有パラメータ¶
| パラメータ | 説明 | 典型値 |
|---|---|---|
| Convergence angle | 収束ビーム半角 (mrad) | 15–25 mrad |
| Detector inner angle | 環状検出器の内角 (mrad) | BF: 0, HAADF: 50–80 |
| Detector outer angle | 環状検出器の外角 (mrad) | BF: 15, HAADF: 200 |
| Effective source size | 有効光源サイズの半値幅 (pm) | 50–100 pm |
| Slice thickness | TDS計算用のスライス厚さ (nm) | — |
| Angular resolution | 収束ビームの角度ステップ (mrad) | 1–3 mrad |
表示モード¶
| モード | 説明 |
|---|---|
| Elastic only | 弾性散乱のみの像 |
| TDS only | 熱散漫散乱のみの像 |
| Both | 弾性 + TDS の合計像 |
温度因子の重要性¶
重要: HAADF-STEM像のシミュレーションには、原子の等方性温度因子 (Debye-Waller factor) をゼロ以外に設定する必要があります。温度因子が不明な場合は B = 0.5 Ų に設定してください。
温度因子がゼロの場合、TDS強度がゼロとなり、HAADF像が正しく計算されません。
Dr. Probe との比較¶
ReciProのSTEMシミュレーション結果は、広く使われている Dr. Probe GUI (v.1.10) と良好に一致することが確認されています。下図は、BF・ABF・LAADF・HAADF 検出器について厚さシリーズ(2.96~60.05 nm)で両者を比較したものです(左: 収差なし、右: Cs = 0.2 mm, デフォーカス = −25.9 nm)。すべての検出器・厚さで両者はよく一致します。
より詳細な比較は PDF で参照できます: Comparison of STEM simulations by Dr. Probe GUI (v.1.10) and ReciPro (v.4.854)
