HRTEM 像形成¶
HRTEM 像は、出射面の波動関数(動力学コア で求めた透過係数 \(T_{\mathbf g}\))を対物レンズに通すことで形成されます。ReciPro は2つのモデルを用意しています:高速な 準コヒーレント近似と、より厳密な 透過相互係数(TCC) モデルです。GUI の説明は HRTEM シミュレータ のページも参照してください。
記号¶
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| \(\mathbf R\) | 実空間(像面)の X–Y 成分 |
| \(\mathbf K\) | 入射波数ベクトルの X–Y 成分 |
| \(\mathbf G, \mathbf H\) | 逆格子ベクトルの X–Y 成分 |
| \(\mathbf u\) | 空間周波数(例: \(\mathbf K+\mathbf G\)) |
| \(\chi(\mathbf u)\) | レンズ収差関数 |
| \(A(\mathbf u)\) | 対物絞り関数 |
| \(\Delta f\) | デフォーカス値 |
| \(C_s\) | 球面収差係数 |
| \(C_c\) | 色収差係数 |
| \(\beta\) | 照射半角(有限な光源サイズの効果) |
| \(\Delta E\) | 電子エネルギー揺らぎの 標準偏差(rms)。GUI の ΔV 欄は FWHM で入力するので \(\Delta E = \mathrm{FWHM}/(2\sqrt{2\ln 2})\) |
| \(\Delta_0\) | デフォーカス広がり(ガウス分布)の標準偏差、\(\Delta_0 = C_c\,\Delta E / E\) |
レンズ収差関数と絞り¶
準コヒーレントモデル¶
高速な近似です。各回折波にレンズ伝達を掛け、コヒーレンスのエンベロープで減衰させてからコヒーレントに足し合わせます。
時間コヒーレンス・空間コヒーレンスのエンベロープは
です。
透過相互係数(TCC)モデル¶
部分コヒーレンスを厳密に扱うモデルです。すべての波の対 \((\mathbf g, \mathbf h)\) が透過相互係数を通して干渉します。
混合コヒーレンスのエンベロープは
です。\(\mathbf u' = \mathbf 0\)(透過波との干渉)と置くと、準コヒーレントモデルの単一周波数エンベロープ \(E_c(\mathbf u)\)・\(E_s(\mathbf u)\) が復元されます。もう一方の極限 \(\mathbf u' \to \mathbf u\) では \(E_c = E_s = 1\) となり、後述の対角項 \(\mathrm{TCC}(\mathbf u,\mathbf u) = A(\mathbf u)^2\) になります。
TCC モデルの計算量削減¶
TCC モデルの二重和は波の対の数だけ \(\mathrm{TCC}\) を評価するため計算量が大きくなりますが、像強度 \(I(\mathbf R)\) が実数であることを利用して約半分に削減できます。
まず、対物絞りの外側(\(A(\mathbf K+\mathbf G)=0\))の波は寄与しないので、和は 絞りの内側(\(A=1\))の波だけ を対象にすれば十分です。
つぎに \(\mathrm{TCC}\) はエルミート対称性
を満たします(\(A\) は実数、\(E_c, E_s\) は \(\mathbf u\leftrightarrow\mathbf u'\) の入れ替えで不変な実関数、位相項 \(\exp[-i\{\chi(\mathbf u)-\chi(\mathbf u')\}]\) は複素共役になります)。あわせて \(\exp[2\pi i(\mathbf H-\mathbf G)\cdot\mathbf R]=\bigl(\exp[2\pi i(\mathbf G-\mathbf H)\cdot\mathbf R]\bigr)^{*}\)、\(T_{\mathbf h}T_{\mathbf g}^{*}=\bigl(T_{\mathbf g}T_{\mathbf h}^{*}\bigr)^{*}\) なので、対 \((\mathbf g,\mathbf h)\) と \((\mathbf h,\mathbf g)\) の項は互いに複素共役です。よってその和は実部の 2 倍になります:
これより二重和は対角項と上三角(波に任意の順序を付けたときの片側)だけで表せ、\(\mathrm{TCC}\) の評価回数が約半分になります:
対角項では \(\mathrm{TCC}(\mathbf u,\mathbf u)=A(\mathbf u)^2\) となり、絞りの内側では \(|T_{\mathbf g}|^2\) に帰着します。
さらに、この和の中では位相因子 \(\exp[2\pi i(\mathbf G-\mathbf H)\cdot\mathbf R]\) が同じ値を何度も取ります。これらを保存して再利用することで、計算をいっそう高速化できます。
関連項目¶
- 動力学計算(共通コア) — 共通の Bloch 波コアと透過係数 \(T_{\mathbf g}\)
- 付録 A3. Bloch波法による動力学計算の概要
- 9.1. HRTEMシミュレーション