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EBSDシミュレーション (EBSD Simulation)

EBSDシミュレータ は、走査電子顕微鏡(SEM)で得られる電子線後方散乱回折(EBSD)パターン(菊池パターン)を、動力学理論に基づく計算によってシミュレーションします。後方散乱電子(BSE)の方位・エネルギー・侵入深さの分布をモンテカルロ法で求め、結晶の動力学回折(ブロッホ波法)による マスターパターン を計算し、現在の結晶方位に対して検出器面へ投影します。実測のEBSD画像を読み込んで 指数付け(その画像を最もよく説明する方位の自動探索)を行うこともできます(実測画像)。

EBSDシミュレータ

ウィンドウは3列で構成されます。

  • 左列 : シミュレーション条件。タブで SEM-EBSD設定(試料・検出器の幾何条件と3Dビュー)、BSE分布(後方散乱電子分布)、補助図形(菊池線などのオーバーレイ)を切り替えます。
  • 中央列 : 現在の結晶方位に対するEBSD(菊池)パターン。その下のタブで 出力パラメータ実測画像 を切り替えます。
  • 右列 : 方位に依存しないマスターパターン(2D / 3D タブ)。

最下部のステータスバーには、実行中の計算の進捗と結果の要約が表示されます。


キーボード・マウスショートカット

中央のEBSD(菊池)パターンと右側のマスターパターンビューでは、マウス操作が異なります。

ショートカット 動作
F1 このページのオンラインマニュアルを開く
パターン中心付近を左ドラッグ 結晶を傾ける
パターン外周を左ドラッグ 結晶を回す
パターンをダブルクリック カーソル位置の検出器セルを選択し統計を表示
画像ファイルをウィンドウにドロップ 実測EBSD画像として読み込む
3Dビュー(幾何/マスター球)を左ドラッグ 回転
3Dビューを右ドラッグ、またはホイール ズーム
CTRL + 3Dビューを右ダブルクリック 正射投影/透視投影の切替
2Dマスターパターンをドラッグ/ホイール 画像を平行移動/ズーム

3Dビューは ReciPro 標準の ビュー操作(平行移動は無効)です。

→ 全ウィンドウの一覧は 21. キーボード・マウスショートカット を参照。


シミュレーションの流れ

マスターパターンを構築 を押すと、以下が順に実行されます。

  1. モンテカルロBSEシミュレーション : 現在の結晶組成・密度・加速電圧・試料傾斜を使い、約250万本の電子を試料中で追跡します(弾性散乱: Mott/NIST 断面積、非弾性散乱: 誘電応答モデル)。後方散乱電子の「侵入深さ × 射出方位 × 射出エネルギー」の同時分布が得られます。
  2. レンジの自動決定 : 上記分布から、動力学計算に使うエネルギー範囲(入射エネルギーからエネルギー損失の約80パーセンタイルまで)と深さ範囲(侵入深さの約99パーセンタイルまで)が自動的に設定されます。
  3. マスターパターンの構築 : 各エネルギー・各深さについて動力学回折(ブロッホ波法)を解き、モンテカルロ分布で重み付けして全方向(球面)の後方散乱回折強度を積算します。結果は等面積(Rosca–Lambert)格子に格納されます。
  4. 検出器面への投影と重み付け : 現在の結晶方位に対して、検出器の各画素が見込む方向の強度をマスターパターンから引き、菊池パターンとして描画します。必要に応じてBSEの方位・エネルギー分布で重み付けします。

エネルギー範囲・深さ範囲などはステップ1・2で自動設定されますが、構築前に手動で調整することもできます。


SEM-EBSD設定

SEMのセッティング

SEMのセッティング

  • エネルギー : 入射電子線の加速電圧(keV)。
  • 波長 : 電子線の波長。エネルギーと連動します。単位 で Å と nm を選びます。
  • Sample tilt : 試料の傾斜角(通常 −70°)。EBSDでは試料を大きく傾けることで後方散乱電子の収量を高めます。

EBSDのセッティング

EBSDのセッティング

検出器(蛍光板)は、画素数と画素サイズで定義される矩形です。

  • 検出器のサイズと傾斜 : Tilt は検出器面の傾き(°)、WidthHeight は検出器の画素数です。
  • 解像度 : 検出器1画素の物理サイズ(mm/px)。検出器の物理サイズは Width × 解像度、Height × 解像度 になります。
  • 検出器中心の座標 : 照射点を原点とした検出器中心の位置 XYZ(mm)。Y・Z と傾斜でカメラ長が決まり、X は左右方向のずれです。

実測画像を読み込むと、検出器1画素が画像1画素に対応するよう WidthHeight が画像サイズに合わせられます(解像度 は変更されません)。

幾何条件は SEM-EBSD設定 タブの3Dビューで確認できます。

3Dジオメトリ

灰色の板が試料、緑の矩形板が検出器、紫の +Z (=beam) が入射電子線です。試料に固定された結晶の a / b / c 軸も表示されます。鳥瞰図表面法線方向X軸 (試料回転軸)Z軸 (電子線入射方向) のボタンで標準的な視点に切り替えられます。座標系の定義は Appendix A1. 座標系の定義 を参照してください。


BSE分布

BSE分布

BSE分布 タブには、モンテカルロで求めた後方散乱電子の分布が表示されます。「分布を計算」 で再計算できます。

  • ステレオネット : 後方散乱電子の角度分布(射出方向のヒストグラム)。中心が表面法線方向で、黄色の枠は検出器が見込む矩形領域を示します。軸を描画 で結晶軸を重ねられます。色スケール(Min / MaxResolutionカラー)を調整できます。
  • ΔE (keV) : 後方散乱電子のエネルギー損失分布。
  • 深さ (nm) : 検出された後方散乱電子が最後に非弾性散乱を起こした深さの分布(マスターパターンの重み付けに使う深さと同じ定義)。

これらの分布は 電子飛程 と同じモンテカルロエンジンで計算され、マスターパターンの重み付けに使われます。


補助図形

補助図形

補助図形 タブで、EBSDパターンに重ねるオーバーレイを設定します。

  • 背景色 : 背景色。
  • 検出器の輪郭 : 検出器の輪郭。外枠を表示(検出器の縁を示す黄色の矩形)・メッシュを表示(分割格子)。
  • 菊池線を表示 : 菊池線を描画。線の太さカラー構造因子を線の色に反映(構造因子に応じて各線が背景色へ溶け込みます)。
  • 菊池線の範囲 : 描画する菊池線の選定基準。構造因子上位 N 本=構造因子の大きい順)または 1/dの閾値(1/d がしきい値以下、nm⁻¹)を選びます。
  • 菊池線の指数を表示 : 菊池線(バンド)の指数表示。
  • 晶帯軸の指数を表示 : 晶帯軸の指数表示。
  • 文字設定 : 指数ラベルの サイズ(文字サイズ)・カラー

マスターパターン

マスターパターン

マスターパターンは、事前に計算する全方向の後方散乱回折強度です。「マスターパターンを構築」 で動力学理論により計算します(停止 で計算を中断できます)。

  • 2D タブ : 半球の等面積(Lambert)投影。半球 で投影する半球(+Z / −Z)を選びます。
  • 3D タブ : 強度をマッピングした球。マウスで回転でき、右上のインセットに結晶軸(a/b/c)が同期表示されます。「結晶軸のラベル」 / 「結晶軸の3D表示」 で軸ラベル・軸矢印の表示を切り替え、「指定軸から投影」 で隣に入力した晶帯軸 \([uvw]\) 方向から眺めます。
  • Energy / Depth スライダー : プレビューするエネルギー・深さスライスを選択します。
  • いずれの図も コピー でクリップボードへコピーできます。

動力学計算のパラメータ

動力学計算のパラメータ

  • 計算に取り入れる波の数 : ブロッホ波計算に取り入れる回折波(ビーム)の本数。多いほど精密ですが計算時間が増えます。
  • グリッド : マスターパターン格子の分解能(既定256)。
  • エネルギー範囲(… ~ … ステップ …) : 積算するエネルギー範囲とステップ(keV)。モンテカルロ結果から自動設定されます。
  • 深さ範囲(… ~ … ステップ …) : 積算する深さ範囲とステップ(nm)。同じく自動設定されます。
  • 非局所吸収モデル : 非局所形式の吸収モデルを使います。
  • TDS バックグラウンド : 熱散漫散乱(TDS)由来のバックグラウンド強度を含めます。

EBSDパターン

EBSDパターン

中央パネルに、現在の結晶方位に対するEBSD(菊池バンド)パターンが表示されます。パターン上部のバーで、描画内容とコピー方法を指定します。

  • 動力学EBSD : 構築済みのマスターパターンを検出器面へ投影します。オフでは背景のみになります。
  • 補助図形 : 補助図形 タブで設定した菊池線・指数・検出器の輪郭を重ねます。
  • 実測画像 : 読み込んだ実測画像を重ねます(下記)。
  • 左右反転 : パターンとオーバーレイを左右反転します。未チェック(既定)は検出器から試料を見る向き=EBSDカメラが記録する自然な画像です。実測画像の左右が逆の場合にのみチェックしてください。
  • Resolution(mm/px)・Size (W×H)(px) : 表示ビューの解像度とサイズ。
  • コピー : 隣で選んだ範囲・形式でパターンをクリップボードにコピーします。
  • 現在の表示 はパン・ズームしたままの表示範囲を、検出器 は検出器エリアのみをコピーします(後者では黄色い外枠が含まれず、画像は検出器の縁でちょうど終わります)。
  • emf は拡張メタファイルで、菊池線や指数ラベルがベクターのまま保持されます。bmp は全体をラスター化します。
  • 検出器の解像度に合わせる は、画像1画素=検出器1画素でコピーします(長辺は 4096 px でクランプ)。未チェック時は画面の解像度です。

出力パラメータ

  • 後方散乱電子のエネルギー・方位分布を考慮して画像を合成 : チェックすると、単一スライスではなくBSE分布(エネルギー・深さ・方位)で重み付けして合成します。
  • Energy / Depth : 上記をオフにしたとき、表示するエネルギー・深さスライスを指定します。
  • 明るさ最小 / 最大)・ネガ/ポジカラー : 明るさの範囲、ネガ/ポジ、カラースケール。

実測画像

実測画像

EBSD画像ファイル(TIFF・PNG・BMP・JPEG。16 bit TIFF はビット深度を保ったまま読み込みます)をウィンドウ上にドロップすると、実測パターンとして読み込まれます。画像は検出器エリアに、シミュレーションパターンの上・菊池線オーバーレイの下に描画されるので、シミュレーションと実測を直接見比べられます。読み込み時に検出器の WidthHeight も画像サイズに合わせられます。

  • 明るさ最小 / 最大) : 重ねた実測画像の黒レベル・白レベルを、その画像自身の強度レンジに対する比率で設定します(スライダーは対数)。シミュレーションパターンではなく実測画像だけに作用します。
  • 不透明度 : 重ねた実測画像の不透明度(0 = 透明 〜 100 % = 不透明)。下げると下のシミュレーションパターンが見えます。

方位の探索エンジンは2種類あります。

  • Radon 探索 : 実測画像の Radon 変換(直線検出)マップに、運動学的な菊池バンドのテンプレートを照合して方位を探索します。マスターパターン無しでも動作し、有る場合はシミュレーションパターンとの robust ZNCC(平均を除いた正規化相互相関)で候補を再ランクします。
  • 辞書探索 : 動力学マスターパターンから全方位の辞書パターンを生成し、robust ZNCC で総当たり比較します。マスターパターンが必須で数秒かかりますが、Radon 探索より確実です。

方位候補を探索 で選択中のエンジンを実行し、良い順に最大10件の候補が並びます。マスターパターンが有る場合、トップ候補は ±0.25° まで精密化されます。表の列は次のとおりです。

意味
# 順位(0 が最良)
Score Radon バンド証拠の z
Bands 一致したバンド数 / 視野内の予測バンド数
ZNCC シミュレーションパターンとの相関
Strong bands (hkl) 一致したバンドの指数(Radon 探索のみ)

行をクリックすると、その方位がアプリ全体に適用され、シミュレーションパターンが実測画像に重なって描き直され、他のウィンドウの結晶方位も追随します。

幾何を較正 は、検出器幾何(パターンセンター PC と検出器距離 DD)を方位と交互に最適化し、シミュレーションと実測パターンの ZNCC を最大化します。マスターパターンが必須で、検出器の傾斜は固定のまま、結果は 検出器中心の座標 の X/Y/Z 欄へ書き戻されます。SEM のビーム走査によるパターンセンターの移動は 1 mm 以下なので、通常は実験の冒頭に1回較正すれば一連の画像に使い回せます。


関連項目